メンタルケアを通じた就労支援の新しいアプローチ

メンタルケアを通じた就労支援の新しいアプローチ

はじめに

令和6年(2024年)4月の障害者総合支援法の改正により就労系の障がい福祉サービスとの連携が強化されました。

改正法では、障がい者が希望する形で就労や社会参加が実現できるよう、就労系障がい福祉サービス(就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型)の役割が再確認され、さらに障がい者が一般企業での雇用に加え、多様な形態で働くことを支援する仕組みが拡充されました。

この法改正により、一般就労中の障がい者でも就労系障がい福祉サービスを一時的に利用できるようになりましたので、その件について詳しく見ていきたいと思います。


アジェンダ


日本におけるメンタルヘルス問題の現状

メンタルヘルス問題の増加

過労やストレスによる精神疾患が急増し、労災認定件数は2022年度には500件を超えるようになりました。2023年度には過労死等に関する請求件数は4,598件、そのうち支給決定された件数は1,099件(前年度比195件の増加)と年々増加傾向にあります。

企業のメンタルヘルス対策

日本労働安全衛生機構の調査によると、約60%の企業が従業員のメンタルヘルス問題に直面しており、約30%の企業が休職者の増加を報告しています。

メンタルヘルス不調を抱えた労働者状況

メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者又は退職した労働者の状況


強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者割合


メンタル不調が企業に与える影響と企業の責任

生産性の低下

2020年度の世界経済フォーラム(ダボス会議)でもメンタルヘルスが経済的・政治的リスクとして認識され、重要な議題として取り上げられました。

メンタルヘルスの問題は、労働力の減少や経済損失だけでなく、社会の結束や政治にも影響を及ぼすと指摘されています。

企業イメージの低下

メンタルヘルス問題が適切に対処されない場合、企業の評判や信頼に悪影響を及ぼすことになります。また、労働環境が精神疾患の原因となることも知られています。


メンタルヘルス問題と解雇の制約

労働契約法第16条(解雇権濫用の禁止)

解雇は「客観的な理由を欠き」、または「社会通念上相当であると認められない場合」、その解雇は無効とされています。

精神疾患が解雇理由として適切でなければ、解雇は無効となるリスクがあります。

労働契約法第19条(解雇制限)

病気療養中の雇い止めが不合理と認められる場合、雇用が継続される可能性があります。

メンタルヘルス問題が業務に関連する場合、療養中は解雇できません。

労働組合法

職場の問題を指摘した従業員の解雇は、正当な理由なく行うことは不当労働行為として禁止されています。


安全配慮義務における企業の責任

労働契約法第5条

企業は、従業員が安全に働けるように配慮する義務があります。特にメンタルヘルス問題が発生した場合、過度な労働時間や職場のストレス要因を排除する責任が企業側にはあります。

安全配慮義務違反のリスク

企業がこの義務を果たさない場合、損害賠償を請求される可能性があり、その結果として解雇の無効化が認められることがあります。


ここまでメンタルヘルスにおける我が国の現状や企業側のリスクについて見てきました。
企業はメンタル不調を抱えた従業員を不当に解雇することはできませんし、メンタル不調を訴える従業員に対してさまざまな対策を講じていると思います。それにもかかわらずストレスを抱える従業員やメンタル不調で休業する従業員は年々増える一方です。そこで、もう一歩踏み込んだ対策を企業様にご提案いたします。

ご提案

障がい福祉サービスを活用してみませんか?


一般就労中の就労系障がい福祉サービスの利用について

2022年の「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」改正により、2024年4月から、一般就労中の障がい者でも就労系障がい福祉サービス(就労移行支援、就労継続支援A、B型)を一時的に利用できるようになりました。

法改正の背景

従来より、民間企業等に就職した障がい者の定着等に向けて、雇用施策や福祉施策による支援を行ってきた。今般の法改正では、これら既存の支援策に加えて、一般就労への移行や継続を障がい者のニーズに応じて柔軟に支援するため、一般就労中の障がい者でも、就労系障がい福祉サービスを一時的に利用できることとしている。

引用:「厚生労働省 令和6年度高次脳機能障害支援コーディネーター全国会議」資料

法令上の新たな位置づけ

働き始めに段階的に時間を増やす場合

  • 企業等での働き始めに、週10~20時間未満から段階的に勤務時間を増やす際に、通いなれた事業所で引き続き就労することを可能とする。
  • 利用期間:原則3~6か月以内(延長が必要な場合は合計1年まで※)
    ※円滑に職場定着が図られるように、個々の状況に応じて設定

生活リズムの維持や、企業と事務所が上表共有し、合理的配慮の内容等について調整を図り、円滑な一般就労への移行を目指す。

休職から復職を目指す場合

  • 休職から復職を目指す際に、支援を受けることにより復職することが適当と企業及び主治医が判断している場合に、復職に向けてサービスを利用することを可能とする。
  • 利用期間:企業が定める休職期間の終了までの期間(上限2年まで)

復職に必要な生活リズムの確立、体力や集中力の回復、主治医や産業医との連携等を通じ、円滑な職場復帰を目指す。

引用:「厚生労働省 令和6年度高次脳機能障害支援コーディネーター全国会議」資料


一般就労中の障がい福祉サービスの利用形態について

一般就労中の一時的な利用について

就労移行支援就労継続支援A型就労継続支援B型
通常の事業所に雇用された後に労働時間を延長しようとする場合労働時間延長支援型同左同左
無職からの復職を目指す場合復職支援型同左同左
概ね10時間未満の所定労働時間で一般就労へ移行した場合就労移行支援短時間型
勤務時間や労働日数を増やすこと
新たな職種への就職を希望
利用期間あり
就労継続支援短時間型
非常勤のような形態で一般就労している(通常の事業所に雇用されることが困難)
利用期間あり
同左

労働時間延長支援型

  • 目的
    生活リズムの維持、雇用先の企業等と就労系障がい福祉サービスの事業所との情報共有、合理的配慮の内容等についての調整等を通じ、円滑な一般就労への移行を目指す円滑な一般就労への移行を目指すことを目的とする。
  • 対象者
    通常の事業所に雇用されている障がい者であって、労働時間の延長の際に就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を一時的に必要とするもの。
  • 利用期間
    支給決定期間は、1か月から6か月までの範囲内で月を単位として定めること。利用期間については、円滑な職場定着が図られるよう、個々の状況に応じ、原則3か月から6か月以内の間とするが、延長が必要な場合は合計1年まで認めることとする。

復職支援型

  • 目的
    復職に必要な生活リズムの確立、体力や集中力の回復、主治医や産業医との連携等を通じ、円滑な職場復帰を目指すことを目的とする。
  • 対象者
    通常の事業所に雇用されている障がい者であって、休職からの復職の際に就労に必要な知識及び能力の向上のための支援を一時的に必要とするもの。
  • 利用期間
    支給決定期間は、1か月から6か月までの範囲内で月を単位として定めること。利用期間については、企業の定める休職期間の終了までの期間(上限2年)とする。

就労移行支援短時間型

  • 対象者
    就労移行支援の利用を経て、企業等での所定労働時間が概ね週10 時間未満であることを目安として一般就労し、就労移行支援事業所で引き続き訓練を受けながら働くことが、勤務時間や労働日数を増やすことにつながる場合や、新たな職種への就職を希望しており、就労移行支援の利用が必要であると判断された者。
  • 利用期間
    就労移行支援の標準利用期間(2年間)とし、最大で3年間の支給決定することができる。

就労継続支援短時間型

  • 対象者
    企業等での所定労働時間が概ね週10時間未満であることを目安として、非常勤のような形態で一般就労している利用者(通常の事業所に雇用されることが困難な障がい者)

    なお、概ね週10時間未満であることを目安としているのは、障害者雇用促進法の改正により、週所定労働時間が週10時間以上20時間未満の精神障害者、重度身体障害者及び重度知的障害者について、事業主が雇用した場合に、雇用率において算定できるようになることを踏まえたもの。
  • 利用期間
    特段の定めなし。

引用:「厚生労働省 令和6年度高次脳機能障害支援コーディネーター全国会議」資料


保険制度と就労移行支援サービスの併用について

健康保険の傷病手当

  • 対象
    業務外の病気やケガで仕事を続けられない従業員が対象となります。健康保険の被保険者であれば、業務外の理由であれば傷病手当金を申請できます。
  • 支給要件
    連続して3日間の待機期間があり、4日目以降から支給されます。給与が支払われていない、または支給額が傷病手当金より少ない場合に適用されます。
  • 支給額
    標準報酬日額の2/3が最長1年6ヶ月間支給されます。

雇用保険の傷病手当

  • 対象
    雇用保険の失業給付を受けている者が、病気やケガで求職活動ができなくなった場合が対象となります。
  • 支給要件
    求職活動を行えない医師の証明が必要です。失業給付を受けている期間中であれば支給可能です。
  • 支給額
    失業手当と同額が支給され、支給期間は失業給付の残日数内となります。

労災保険の休業補償給付

  • 対象
    業務上または通勤途中の事故や病気が原因で、働けなくなった場合に支給されます。
  • 支給要件
    業務災害または通勤災害が認定され、業務に従事できない状態であることが条件です。
  • 支給額
    平均賃金の60%が休業4日目から支給され、さらに特別支給金として20%が支給され、合計で80%の補償が行われます。

保険制度と移行支援の併用可能性

  • 健康保険の傷病手当
    就労移行支援を受けながらも労働しない限り、傷病手当金の受給が継続されます。移行支援は就労準備段階であり、実際の労働には該当しないため問題ありません。
  • 雇用保険の傷病手当
    失業中であれば、就労移行支援を利用しながら傷病手当金を受給することができます。職業訓練の一環として利用できるため、復職準備が可能となります。
  • 労災保険の休業補償給付
    業務上の事故や病気の場合、移行支援を利用しながら休業補償を受け、再就職や復職に備えることができます。

まとめ

就労移行支援をワンクッションとして活用

  • 当事業所が提供する就労移行支援プログラムは、メンタルヘルス問題を抱える従業員と企業との関係を改善するための「ワンクッション」として機能します。
  • 直接的な復職が難しい場合、就労移行支援を活用することで従業員はさまざまなスキルを習得し、職場復帰への準備を整える時間を確保することができます。
  • これにより、企業は従業員の即時解雇を避け、適切な対応を取る余裕を持つことができます。

関係の悪化防止と柔軟な選択肢

  • メンタルヘルス問題を抱える従業員が就労移行支援を経てスキルを高めることで、復職や再就職の選択肢が広がり、企業と従業員の関係の悪化を防ぐことが可能です。
  • 従業員は新たなキャリアパスを見出し、企業は安全配慮義務を果たしながら、適切な支援を提供できます。

法的リスクの軽減

  • 就労移行支援サービスを活用することで、企業は安全配慮義務を果たし、解雇リスクや訴訟リスクを軽減します。
  • 従業員が復職に向けた段階的な支援を受けることで、企業は法的リスクを避けつつ、従業員の社会復帰をサポートすることができます。

さいごに

令和6年に行われた障害者総合支援法の法改正の内容と就労系の障がい福祉サービスとの連携について見てきました。この法改正により、障がい者の方はより柔軟にさまざまな支援を受けることができるようになりました。ただし、企業が求める人材の質は高いため、福祉サービス事業所からするとこれまで以上に質の高いサービスを提供しなければいけません。

ヒューマンネット上本町センターではベテランのITエンジニアが2名常駐しており、EcxelやWordといった一般的なパソコンスキルからJava言語やPython言語、SQL、HTML/CSSなど高度なプログラミングスキルを習得することができます。

ご興味のある方はまずは体験をしに来ませんか?


本提案について、ご意見やご質問、詳細をお知りになりたい等ございましたら下記までご連絡ください。

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TEL:06-6767-7718

担当:ビジネスプランナー 村田